選定会議の(初日)、(実行委員長)の鷹栖さんは私の(推薦表)を脇へ置いた。「(開幕作)は、(若い)ディレクターの趣味では決められません。あなたは上映の段取りを見ていてください」。
私は三十歳、国際映画祭のプログラム・ディレクターだ。五年、毎年毎年(応募作)を見てきた。それでも(会議)では、進行の紙を配る(係)だった。
鷹栖さんは(自信をもって)話す人で、(西洋)の古典に精通している。(排他的な)趣味の人でも、(偽善的に)褒める人でもない。ただ、開幕作は自分の目で決めたいのだ。
「(目新しさ)だけで客は来ません。初日の客席は、(劇的な)物語を語る作品を求めています。(ユーモラスな)(短い)作品では、幕間の休憩まで持たない」。
彼の推すのは、西部の炭鉱町を舞台にした二時間の長編だ。(ジャンル)として確かに重く、主題歌を歌う(歌手)の(知名度)も高い。悪い作品だとは思わない。
(応募)は三百二十四本。二か月、(学部生)の助手二人と一本ずつ見てきた。助手の一人は(学生寮)から朝八時に来る。推薦表に載せた十二本のうち、一本が(気になっていた)。
(女優)が一人だけ出る六十五分の作品だ。理髪店の娘が、客の髪を切りながら町の(噂)を語り続ける。(物まねする人)の芸のように声が変わり、(コメディアン)の間の取り方に近い。
(必要な)確認は二つだと見当をつけた。権利の(書類)と、字幕の尺である。批評の(シリーズ)に載った評は参考にとどめた。
一つ目の(食い違い)は、鷹栖さんが推す長編の権利書だ。(配給会社)の書面では、(国内)の上映権が「祭典での一回」とある。開幕作は二回上映する。略語の多い、読むのが(面倒な)一枚だった。
二回目の上映には、(別の)契約が要る。相手は(海外)の(権利者)で、返事に三週間かかると配給会社の担当が言った。開幕まで四週間。返事を待ってからもう一回分の契約を(結ぶ)のは、楽観主義者でも(無理)だった。
(二つ目)は字幕だ。長編の字幕は海外の映画祭で付けたものを流用する予定で、私はその(版)を(取り寄せた)。
炭鉱の用語が、二十二か所で別の語に(置き換わっている)。(比喩的な)表現は説明の文に直され、(古風な)方言も標準の言い方に均されていた。(なぞなぞ)のような台詞が、答えつきで出てくる。
(開幕作)の字幕を新しく(作る)時間はない。流用すると、観客は作品と(異なる)言葉を読むことになる。海外の映画祭の字幕ならそのまま使えると思った私の判断が、(賢明)でなかった。
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二日目、私は理髪店の作品の監督に会った。三十四歳の(単独の)制作者で、(編集)も自分でしている。パブの二階の(部屋)で、彼女は(かさばる)稽古の記録を出してきた。
「権利はどうなっていますか」と私は聞いた。「全部私です」と彼女は言った。「(出資)も(自分で)、女優は友人です。契約書は一枚で、(透明性のある)(形)にして(あります)」。
字幕も彼女が作っていた。原語の皮肉が残り、耳に残る(言い回し)が生きている。三十分、画面を(凝視して確かめた)。安心したのが正直なところだ。
「上映の(回数)は」。「何回でも構いません」と彼女は言った。「ただ、幕間の休憩のあとは(避けたい)。客が戻る前に始まると、(冒頭)の二分が消えます」。彼女はよく喋る人だった。
女優の方にも(電話した)。(美容師)として働きながら撮影に入ったという。「(サロン)の休みを三日もらって、三日で撮りました」と彼女は(笑った)。
初日に舞台に立てるか聞くと、少し黙ってから、はい、と答えた。「(スタイリスト)に髪を頼みます。(巻き毛)をまげに結うと、作品の娘と逆になるので」。
事務局に戻って、三枚の(紙)を作った。(長編)の権利の(期限)の表、流用した字幕の二十二か所の対照、理髪店の作品の権利と上映可能な回数の(一覧)である。
三枚目の(最後)に、観客数の(推定)を一行だけ書いた。六十五分なら初日に二回入れて、(幕間)の休憩を挟まない構成が組める。案内係の配置も半分で足りる。
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三日目の(朝)、三枚を鷹栖さんの机に置いた。彼は眼鏡を(上げ)、一枚目を(長く)見る。
「二回目の上映の権利が(無い)のか」。「海外の権利者の(返事)に三週間かかります。開幕まで四週間です」。
彼は二枚目を取り、字幕の対照の(列)を(指)でたどった。「この二十二か所は、誰が(調べました)」。「私です。原語と一語ずつ突き合わせました」。彼は(小さく)驚きの声を上げた。
三枚目で彼は手を(止めた)。「六十五分の方は、権利が全部(監督)にあるのか」。「一枚の契約で(済みます)。字幕も監督が作っています」。
鷹栖さんは椅子を(引いて)座り、三枚を(並べ替えた)。彼は資料を最初から読み直す人で、(沈黙)が長い。(言い訳)を探すのではなく、(判断)を変えるために黙っていた。
「字幕の二十二か所は、私も気づいていなかった」と彼は言った。「海外の(映画祭)で(見た)ときは、字幕を読まなかった。推論でなく、突き合わせないと分からない(種類)の(話)だ」。
彼は立ち上がって窓際まで歩き、(戻ってきた)。選定委員の全員が顔を上げている。
「若いディレクターの(趣味)では決められない、と言いました」。彼はこちらを向いて、人前で(はっきり)言った。「さっきの言葉は(撤回する)。権利と字幕を調べたのは、あなた一人です」。
「開幕作は、あなたの推薦に差し替えます。構成もあなたが(決めて)ください。何よりも、見た人が(喋った)方が(通ります)」。
その日から、初日の構成は私の担当になった。鷹栖さんは毎朝十分、言い方を(直す)。「権利の話は(先に)言え。後に回すと(隠した)ように聞こえる」。
「配給会社を責めないでください」と彼は言った。「期限の問題だと言うだけでいい。(愚かな)(手続き)だと一言でも言えば、来年から作品が来なくなります。衝動で書くな」。私は(形容詞)を三つ(削った)。
初日の客席は満席だった。幕間を挟まず、六十五分を二回続けて上映する。幕が上がる前に、(たいまつ)の形の照明が壁を一度だけ(照らした)。
舞台の上で、女優はまげに結った髪をしていた。(日焼けした)腕に真珠の(ブレスレット)、(きらきらした)帯を腰にゆるく締めている。作品の(みすぼらしい)娘とは別人で、客席が小さく笑った。
「この話は、私の祖母の(店)の話です」と彼女は言った。「髪を切る間だけ、人は本当のことを言う。そういう(場所)です」。(拍手)は長く、客席には(陽気)な空気が広がった。
監督は舞台に上がるのをためらい、(後ずさりして)いたが、(最後に)一度だけ出てきた。「編集を自分でやると、直す場所が(無限)に見えます。ここで(止めて)くれた人がいます」。
鷹栖さんは終演後、(オーバーコート)を(腕)にかけて客席の(後ろ)に立っていた。「幕間を入れなくて正解でした。冒頭の二分が、この作品の全部だ」。
長編は三日目の(夜)に(一回)だけ上映した。権利の返事は最終日に(届いた)。間に合わなかったのではなく、初めから間に合わない(日程)だったのだ。
私は浮かれなかった。見つけたのは権利の(期限)と(字幕)の二十二か所で、(作品)を作ったのは私ではない。この仕事を誇りに思ってはいるが、(想像できない)ほどの(成功)ではない。
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事務局の(壁)に、権利の期限の(表)を貼り直した。受付の日と上映可能な回数を並べてある。来年入る助手が、もう一度これを(読む)ところから始める。
その(子)は(学部)を出たばかりで、字幕の(尺)を数えたことがない。(講義)では教えないらしい。私は机を一つ横に移動させて隣に座らせ、問い合わせの電話も一緒に取る。
「字幕は毎回(突き合わせる)んですか」と彼が(聞いた)。「毎回です」と私は答えた。(一語)の置き換えで、監督の(皮肉)が説明に変わる。(見失う)のは、たいていそこだ。
私は今も会議室の端に(座る)。ただ今は、初日の(構成)を読み上げるのが私で、鷹栖さんが横で上映の時刻を確かめている。