稟議の(差し戻し)を渡しながら、(審査)(部長)のケラーさんは言った。「現地採用の方は、数字を見るだけでいい。(現場)の判断は、本店の審査がやります」。
私は三十四歳、(外資系)銀行の法人営業である。八年、小売りの会社の財務を読んできた。それでも(会議)では、数字を(読み上げる)係だった。
ケラーさんは率直な話し方をする人で、(皮肉な)見方を(隠さない)。軽蔑しているのではない。ただ、現地の営業が出す稟議を(原則として)疑う習慣があり、(善意)からそうしている。
「(正直さ)は認めます。ただ、あなたの会社は在庫の(数量)を自分で数えていない。棚にあるものが本当にあるのか、誰が(確かめた)のですか。無邪気さでは稟議は(通りません)」。
案件は、(住宅)の改装を手がける小売りの会社への与信だった。(郊外)に七店、(水辺の地域)に一店。年商の伸びは安定しているが、在庫が年々(山積み)になっている。
提出された(資料)は、在庫の(一覧)と店ごとの売上の表、外部の(検査官)が書いた報告書だった。担当者が三人で書いたらしく、様式がばらばらだ。
(必要な)(確認)は二つだと見当をつけた。在庫が実際に動いているかと、積み上がった分の(正体)である。
一つ目の(食い違い)は分類だ。会社の在庫の一覧は(品目)を十種で呼び、検査官の報告書は二十一種で呼ぶ。どちらで数えるかで滞留の(額)が二倍違い、必然的にどちらかが(実態)と外れる。
二つ目は、中古の扱いだ。(解体)の工事で外した(設備)を引き取り、手入れして小売りで売る事業がある。浴槽、(戸棚)、(照明)、ラック。これが在庫の一覧では新品と同じ行に入っていた。
私は検査官の報告書を一行ずつ数え直した。滞留とされた(在庫)のうち、六割が中古の品だ。(いわゆる)不良在庫ではない。(新品)の在庫は、この三年ほとんど増えていない。
中古の品の回転も(調べた)。(洗面器)と枕カバーのような小さな品は三か月で売れる。浴槽と(鳥かご)のような大きい品は一年半かかる。平均を取ると、(全部)が滞留して見えてしまう。
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二日目、私は水辺の地域の店に行った。中古を扱う売り場が地下室にあり、階段を降りると湿った(空気)がする。(陰鬱)な場所ではなく、照明が明るい。
売り場の(責任者)は、二十四年この会社にいる百々瀬さんという人だ。(見知らぬ)(顔)が来たので驚いたらしい。「あなたは(数字)の方ですか」と聞かれ、在庫を見に来ました、と答えた。
「大きい品は、長く置くのが仕事なんです。(別荘)を改装する方が、(デッキ)や浴槽を探しにいらっしゃる。半年待ってくださる方が多い。(不便)な商売に見えますよね」。
彼女は台帳を出してきた。どの品がいつ(入って)、いつ(出た)か、十一年分の記録である。(頑丈)な表紙の帳簿で、頁の(隙間)に客の(はがき)と品のタグが挟まっていた。
「はがきは、(見つかった)方からの(お礼)です」と彼女は言った。「探していた型の照明があった、と。そういう方が次の(改装)でも来てくださる。(推薦)で来られる方も(多い)んです」。
十一年分から、品目ごとの回転の(日数)を拾った。大きい品は(平均)で五百二十日。ただし一度も値を下げず、偽の値札も(貼っていない)。
(小さい)品は九十日で、こちらは補充が追いつかない日がある。(スポンジ)、(ろうそく)、(ティーポット)、スリッパ。こういう(主要)商品が、売り場の現金を回していた。
百々瀬さんは(腰掛け)に座って帳簿をめくり、思い出を語った。「電気工の方や(家政婦)の方が、ここで(代替品)を探すんです。新品より早く見つかるので」。
帰りの電車で、私は回転の日数の一枚だけをケラーさんに送った。十分後に(返事)が来た。「(大きい)品の値引きが零なのは、初めて(見る)数字です。残りも(見せてください)」。
(本店)に戻って、三枚の実用的な紙を(作った)。在庫を新品と中古に(分けた)表、品目の大きさごとの回転日数、百々瀬さんの十一年分の値引きの記録である。
三枚目の下に(一行)書いた。中古の大きい品は滞留ではなく、この店の(商売)そのものである。(倉庫)を占める(面積)も、定価で売れる品を置くために結果として生じる(費用)だ。
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三日目の朝、三枚をケラーさんの(机)に置いた。彼は眼鏡を上げ、(一枚目)を長く見る。
「滞留の六割が中古なのか」。「中古です。新品の在庫は三年ほとんど増えていません」。彼の(手)が、水平に(表)を(なぞった)。
彼は二枚目を取り、回転日数の(列)を(指)でたどった。「大きい品は五百二十日か」。「ただし値引きが一度もありません。待てば(定価)で売れています」。
三枚目で彼は手を(止めた)。「この値引きの記録は誰のものですか」。「売り場の百々瀬さんの台帳です。十一年分あり、(口頭)の(説明)も受けました」。
ケラーさんは椅子を(引いて)座り、三枚を並べ替えた。彼は(資料)を最初から読み直す人で、(沈黙)が長い。言い訳を探すのではなく、判断を変えるために黙っていた。
「新品と中古を分けていなかったのは、我々の(様式)の(問題)です」と彼は言った。「同じ行に入れれば、そう見える。私は(忘れっぽい)ので、(手引き)に(書き足します)」。
彼は立ち上がって窓際まで(歩き)、戻ってきた。審査の全員が(顔を上げ)、彼の次の言葉を待っている。
「現地採用の方は数字を見るだけでいい、と言いました」。彼はこちらを(向いて)、人前で(はっきり)言った。「さっきの言葉は撤回する。(棚)を見に行ったのは、あなた一人です」。
「稟議は、あなたの名前で出してください。私は(横)に(座って)直す。本店への説明も、あなたが(引き受ける)方が通ります」。(優位)を手放す言い方だった。
その日から、稟議は私の机に移った。ケラーさんは毎朝十分、言い方を(直す)。「小さい品の補充の(遅れ)は先に書け。後に回すと隠したように見える」。
「(会社)の経理を責めないでください。(様式)の問題だと書くだけでいい。ぜいたくな在庫だと一行入れた(瞬間に)、先方は数字を出さなくなる。(退屈)でも、様式の話にとどめて」。私は(形容詞)を三つ削った。
稟議は十二頁になった。新品と中古を分けた表を最初に、回転の日数を(二番目)に、(値引き)の記録を最後に添える。(皮肉)は一行も入れなかった。
三週間後、(与信)は(承認された)。条件は一つ、中古の在庫を(四半期ごとに)(大きさ)で分けて報告すること。先方の財務の担当は同意し、反対する人もいなかった。
同じ(月)、会社は在庫の一覧の様式を(新たに)更新した。新品と中古を別の表にして、大きさごとに(行)を分ける。(家主)から引き取った品も別の欄に移った。
百々瀬さんから(封書)が届いた。台帳の(写し)が三枚と、(小さな瓶)に入った芝生の種が入っている。「(数える)人がいるなら、こちらも大きさで分けます」とあった。
ケラーさんは審査の手引きの在庫の(章)を書き直した。新品と中古を分ける行を最初の(頁)に(置き)、百々瀬さんの十一年分を(後ろ)に付ける。「(理由)が書いていないと、三年で誰も見なくなる」と彼は言った。
店の商売を(変えた)わけではない。ただ、正しく見える形に整えて、必要な(判断)につないだ。(完璧さ)を求める仕事ではないが、それで一つ通った。
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本店の壁に、(新品)と(中古)を(分けた)表を貼り直した。新しく来た人が、これを読むところから始める。
その人は(小売り)が初めてで、棚を見に行ったことがない。机を一つ横に移動させて隣に座らせ、(問い合わせ)の電話も(一緒に)取る。(ホチキス)の位置から教えている。
「表だけでは分からないんですか」と聞かれた。「分かりません」と私は(答えた)。(地下室)の(湿った)空気の中に、五百二十日(待つ)商売がある。表の上では際立たない。
私は今も会議室の(端)に座る。ただ今は、稟議の結論を読み上げるのが私で、ケラーさんが横で(回転)の(日数)を確かめている。