気候が変わったと言うとき、何を(根拠)にそう言えるのか。(水銀)の柱を読む(温度計)が(各地)に並んでからの記録は、せいぜい百数十年分しかない。それより前の(気候変動)を語るには、当時の空気と地面と生き物が残した(痕跡)を読む。この三つの層を突き合わせるのが地球科学の基本の作業になる。(宇宙)の年齢のような時間ではなく、人が掘り抜ける(深さ)の記録が相手になる。
第一の層は空気だ。古い氷には、降った雪と一緒に閉じ込められた(泡)がある。泡の中の(二酸化炭素)の(量)は、その時代の(大気)の組成をかなり素直に写している。穴の多い新しい雪はまだ外の空気と(通じている)ので、泡として数えられるのはある深さより下の層だけだ。(オゾン)のように(壊れやすい)気体はこの方法では読めず、(硫黄)を含む(微粒子)のほうは気体ではなく、空気に浮かんだ細かい粒として層に残る。
工業化が進んだ時代の層では、人が(排出した)煤や、鉛や(ニッケル)のような金属の(成分)が増える場合がある。どれがどれだけ増えるかは地域と資料によって異なる。(有毒な)(粒)が混じった層では、(顕微鏡)で見える粒の形が自然の(鉱物)と違う。粒の大きさは(マイクロメートル)の単位で、風がどこまで運んだかの手がかりになる。(酸性の)強い雨が長く続いた地域では、同じ年代の木の年輪の幅が(細くなる)例が報告されている。
第二の層は地面である。湖や湾の底にたまった沈殿物は、一年に一枚ずつ(重なる)ことがある。粒の細かさや鉱物の組み合わせは、川が運び込んだ(土)の量を示し、そこから降水の手がかりが得られる。(砂岩)のような(粗い)粒の層が挟まる区間は、水が一度に(大量)に入った可能性を示すが、風で運ばれた砂や(地震)で崩れた土でも同じ見かけになるので、原因は別に確かめる。花粉や(菌類)の胞子が入っていれば、植物学的にどんな顔つきの森があったかまで分かる。
ただし層の年数は堆積の速さが場所によって異なるので、(地理的な)条件を一つずつ確かめないと使えない。(急勾配)の険しい谷から流された(がれき)が混じれば、記録は一度(途切れる)。(尾根)の上の(浅い)土は雨で流されやすい。(低地)では洪水や地下水の出入りで層がかき乱され、順番どおりに読めなくなることがある。水に(完全に)(浸す)泥炭地は、逆に分解が遅くよく残る。
第三の層は生き物である。木の年輪の幅は、その年の(成長)を一番強く抑えた条件を映す。(樹種)と地域によって異なり、ある森では気温、別の森では(降水量)や日照が効く。(樹液)の(流れ)が良い年は輪が広く、成長が止まる条件が重なった年は狭い。(果樹園)の記録に残る(花盛り)の日付、(花びら)が開いた日、(花の蜜)を集める虫が来た日も同じ性質の資料だ。(肥沃な)(海岸)の平地では(農業)の暦が長く残り、(種をまく)日の記録が気候の資料に変わる。
生き物の資料には(弱点)がある。暖冬が続けば冬眠の期間は短くなるが、理由は気温だけとは限らない。えさになる生物の増減、(獲物)と(捕食者)の関係、(繁殖)の(時期)をずらした個体群——どれも効く。(カモメ)が(内陸)に入る年、(キツネ)の行動範囲が変わる年、漁の記録に残る魚の群れの移動。(水族館)の(飼育)記録は条件が整いすぎていて、この用途には向かない。一種類だけ見て気候のせいだと言うのは、(統計的な)傾向としては(危うい)。
だから(複数)の(層)を重ねる。氷の泡が示す二酸化炭素の増え方、沈殿物の化学成分や小さな(化石)から条件付きで推定した(海水)の温度、年輪が示す乾湿が同じ向きを指したときにだけ、(結論)を一段強くする。そろわない区間は、そろわないまま報告する。
短い揺れと長い(傾向)も分けて扱う。(火山)が(噴火して)高い空まで微粒子が届いた年には、世界の平均気温が一時的に下がり、数年で(静まる)。(台風)や地震のような一時の出来事も、長期の傾向と同じ軸に並べると傾向を隠してしまう。指数関数的に増えたという言い方も、どの期間のどの記録から出た数字かを添えなければ比べられない。
(装置)が増えても、この構造は変わらない。(天文台)は太陽の活動を記録し、(水素)や(酸素)の、同じ原子核を持ちながら重さの違う型の(比率)は、条件を限れば当時の水温や降水を示す。(磁石)で地層の(磁気)の向きを読む方法は気候そのものではなく地球の磁場の歴史を残すもので、層の(年代合わせ)に使う。範囲の外に出た異常な値は、気候が異常だった証拠ではない。
(気候)の記録は一冊の帳簿ではない。空気と地面と(生き物)が、別の筆跡で、別の(精度)で、別の期間を書き残した(断片)である。断片をそろえ、同じ向きを指させる作業がこの分野の仕事だ。
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