(最終)報告の二週間前、パートナーの氷室さんは(会議室)の端の席を(指して)言った。「君は資料係だから、そこで(図解)を作っていてくれればいい。結論は私が(書く)」。
私は三十三歳、戦略コンサルのマネージャーである。製紙会社の(生産拠点)をどう(統合)するか、半年それを分析してきた。企業の(組織)を描き替える(任務)のはずだったが、会議では(部外者)のように扱われる席に座っていた。
氷室さんは有無を言わせない話し方をする人で、(幹部)への(説得)がうまい。十五年この産業を見てきた自負があり、若いマネージャーの前提を(容赦なく)崩す。(あざ笑う)のではない。ただ、結論は自分の手で書きたいのだ。
「君の図解はきちんと整理されている」と彼は言った。「だが(客観的)な(判断)は(経験)の量で決まる。世間知らずの(分析)を先方の長に出すのは、(受け入れられない)」。
先方から届いた書類は、四つの工場の装備と(仕事量)をまとめたものだった。工場長たちが(対面)の聞き取りに応じて書いた紙で、書体が四人分ばらばらだ。(利用できる)数字と、(参考)にしかならない数字が(混ざる)。
必要な(項目)は二つだけだと、私は(最初に)見当をつけた。四十項目のうち、結論に不可欠なのは各ラインの容量と、年間の(所得)への寄与だけである。
一つ目の(食い違い)は、容量の数え方だった。北の二工場は一日二交替で数え、南の二工場は三交替で数えている。(同じ)設備が、紙の上では(同等)の(能力)を持たないことになる。
二つ目は(分類)だ。先方の(財務)部は製品を七種に(分けている)が、工場の側は五種で呼ぶ。どの分類を使うかで、余る設備の数が変わる。(提案された)案は、七種の側だけで書かれていた。
私は交替の条件をそろえて数え直した。二交替に統一すると南の容量は一割八分(下がり)、三交替にそろえると北は(人員)が(足りない)。どちらの前提でも、閉じるべき工場は(入れ替わる)。
氷室さんの(下書き)は三交替を採っていて、北の(古い)工場を閉じる(案)だった。考えをまとめるには、(現場)でもう一度数える必要があった。
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二日目、私は南の工場へ行った。先に(電話)で問い合わせをして、ラインの(監督者)に時間をもらう。(予定された)(訪問)ではないので、工場の側は少し身構えていた。
(工場長)は五十代の、(手慣れた)話し方をする人だった。(名刺)を渡すと「本社の資料係の方ですか」と言われ、(公平)に聞きたいので(評価)の話は先にしないと伝えた。
「三交替は紙の上だけですよ」と彼は作業台の横で言った。「夜勤を回せる人が十二人しかいない。四年前に(募集)を(拡大した)が、資格がある人の(応募)は来ない」。
弟子にあたる若い(作業員)が、調整の(手順)を(見せてくれた)。段取り替えに四十分。品種を増やすほど、この四十分が(効率のよい)運転を潰していく。
「夜勤を無理に入れると何が起きますか」。「段取り替えを(急がせる)ことになる。急がせた月は(不良)が増えます」。
その月別の(記録)を見せてもらった。夜勤の(本数)と不良率が、きれいに対応している。本社の(書類)には、この表を含めることをだれも頼まなかったらしい。
帰りの電車で、私は三年分の数字を(並べ直した)。三交替の(前提)で出した統合案は、不良の増加分を計算に入れていない。入れると、(押し上げる)はずの(利益)が三分の二消える。
事務所に戻って、三枚の紙を作った。(交替)の(条件)をそろえた容量の表、(分類)を対応させた(一覧)、夜勤と不良率の対照表である。社内の(アナリスト)に頼まず、一人で数えた。
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三日目の朝、氷室さんは私の机の(横)に(立って)、一枚目を長く見た。「北と南で、交替の数え方が違うのか」。「違います。工場長が四人で書いた紙で、そろえる人がいませんでした」。
彼は二枚目に進み、分類の対応の(列)を指で(たどった)。「財務の七種と現場の五種は、ここで(食い違う)のか」。「(紙箱)と(薄紙)を、現場は一つで呼んでいます」。
三枚目で彼は手を止めた。「不良(率)はどこから(出した)」。「南の工場の月別の記録です。本社には上がっていません」。
氷室さんは(椅子)を引いて座り、(黙って)三枚を並べ替えた。だれも中断しなかった。
「私の下書きは三交替を採っている」と彼は言った。「夜勤を(回せる)人が十二人なら、あの(案)は(成り立たない)」。
「成り立たせるには募集から(始める)必要があります」と私は言った。「二年かかる。(統合)のスケジュールには収まりません。(経済)の(見通し)も二年先は読めません」。
彼は立ち上がって入口まで(歩き)、(戻ってきた)。(集会)のように、チーム全員が顔を(上げている)。
「君は資料係だから、と言った」。彼はこちらを(向いて)、はっきり言った。「さっきの(言葉)は(撤回する)。この三枚は、半年現場を数えた人間しか出せない」。
「最終報告の結論は君が書け」と彼は続けた。「私は横に座って(直す)。先方の長への(説明)も君に(任せる)。数えた人が喋った方が通る」。(権限)を超えたと叱られるかと思っていたので、私は(返事)に半拍遅れた。
その日から、下書きは私の机に移った。氷室さんは毎朝三十分、言い方を(直した)。「(断定)が強い」「不良の話は(先に)書け。後ろに回すと(隠した)ように見える」。
「相手の財務部を責めるな。数え方の(問題)だと書くだけでいい。こちらの見方を(押しつける)ものではない」。私は(形容詞)を三つ削った。彼は(助言者)として横にいて、(指針)を一つずつ渡してくれた。
報告の当日、資料の(宛先の人)の欄に私の(名前)が入った。問いただされるのは私だという意味で、(名誉)よりも責任の(移動)である。(信頼できる)数字を持つ者が喋る(形)に変わっただけだ。
先方の幹部は、容量の表の前で(十分)止まった。それから南の工場を閉じない案を(正式に)(承認した)。(北)の古い設備は品種を絞って(残す)。半年の(努力)が形になるのは、この十分だけだった。
「不良率の表を頂けますか」と財務の次席の(方)が(言った)。「うちの分類を現場に合わせて作り直します。これからは(両方)の部署で(協力します)」。
氷室さんは(依頼主)への報告書に、起草者として私の名前を入れ、秋に始まる同業の(案件)にも私を指名したと言った。
「君は(多才)だから」と彼は言いかけて、言い直した。「いや、(手慣れている)のとは違う。数えるのを途中で(やめない)だけだ」。それが彼の評価の仕方だった。
(見つけた)のは数え方の(食い違い)で、工場の(仕事)そのものは何も楽にならない。(飛躍的進歩)でも(偉業)でもなく、半年の最高潮がこれだったという話だ。
南の工場長から(短い)(手紙)が届いた。夜勤の募集を(柔軟に)組み直すとある。十二人で回す前提はまだ(変わっていない)が、私は(協力者)として名前を覚えてもらえたらしい。
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(夕方)、私は交替の条件と分類の対応表を(壁)に貼り直した。七種を上に、五種を(下)に(並べてある)。新しく入った(見習い)が、これを読むところから始める。
(その子)は先週、(別の)部署から戻って参加した人だ。(机)を一つ(横)に移動させて(隣)に座らせた。数字に(慣れさせるには)、問い合わせの(電話)を(一緒に)取らせるのが一番早い。
「(前の)課では、こういう(表)は作りませんでした」と彼は言った。「作らないと(合意)が取れないんです」と私は答えた。指導力という言葉を自分に使うのは、まだ気恥ずかしい。(宝くじ)が当たったわけではない。
(危機)という語を報告書に書かなかったのは、意識して(避けた)。(工場)はまだ動いている。(安定している)うちに数え方をそろえる、それだけの仕事だった。
私は今も会議室の端に座る。ただ今は、結論の(段落)を(読み上げる)のが私で、氷室さんが横で頁をめくっている。