(スイス)からの(団体客)が十八人、水曜に(着く)。到着の二日前、料飲部長の鵜飼さんはフロントの台に(予約票)を置いて言った。「(食事)の細かいところは英語の人を呼んで。篠田さんは鍵の受け渡しだけでいい」。
私、二十六歳、シティ(ホテル)のフロントである。今月から(海外)担当という札が、私の名前の横に付いた。ただ、外国の団体の(朝食)の(相談)は、まだ一度もしたことがなかった。
鵜飼さんは三十年この(仕事)をしてきた人だ。宴会の(献立)を一人で組み、(おもてなし)の形を自分で決める。グルメの(客)にも褒められる人である。悪い人ではない。ただ、(厨房)のことは厨房で決めたいのだ。
「フロントの案内は上手だと聞いている」と鵜飼さんは言った。「でも献立は(材料)の話だ。(免税)の買い物や(割引)のご案内とは違う」。彼はパンフレットの(束)を台の上で揃えて、厨房へ(戻っていった)。
同じ班の間宮さんが、横で(レジ)の(精算)を続けていた。「(去年)の団体も、朝食で三十分止まりましたよ」と小声で言った。あの時は(添乗員)の方が全部訳していたらしい。
旅行会社から届いた予約票は、十八人分の(好み)が一枚にまとまっていた。先方の担当者が(手で)(書き写した)らしく、同じ言葉が二通りで書かれている。食事の欄の横に、(ラベル)のような(シール)が貼ってあった。
必要な(確認)は一つだと、私は(最初に)(見当をつけた)。二十項目のうち、朝食に不可欠なのは、食べられない材料の欄だけである。あとは台に並べてあれば済む。
その欄で止まった。「(大豆)を使わない」と書いた客が四人いる。うちの朝食の味噌汁も、煮込んだ(豆腐)の小鉢も、大豆が土台である。(替わりの品)を出さないと、四人は(選択の余地)なく台の前を通り過ぎることになる。
同じ欄に、小麦と(大麦)を避ける客が三人いた。(パン屋)から届くパンも、朝の(パイ)も、大麦の雑炊も出せない。米のかゆを(用意できる)かどうか、厨房に聞く必要があった。(缶詰)の果物で足りる話ではない。
残りの十八項目は読まなくていい。(好きな)果物や、(ココア)を飲むかどうかは、朝の台にスイカと(ラズベリー)と一緒に並べてあれば済む。軽食の棚も、昼前に(補充する)決まりだ。
私は(該当)の七人分だけ抜いて、避ける材料と(替わり)の品を並べた紙を一枚作った。見つけたのは二つ。それを厨房の入り口に(置いた)。
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厨房の若い(調理人)の杉戸さんが、最初に(見てくれた)。「大豆なしなら、昆布だしの塩の汁にしましょう」と彼は言った。(しょうが)を少し(振りかける)と、辛みで物足りなさが消えるらしい。そういう(作り方)があるのを、私は知らなかった。
小麦と大麦の方は、米のかゆで足りる。かぼちゃと(きゅうり)と(キャベツ)を添えれば、栄養豊富な一皿になると杉戸さんは請け合った。(熟した)(パパイヤ)も、その週は有機の便で入っていた。(皮)をむくのは朝でいい。
私は紙を(直し)、七人分の席に(タグ)を付けた。三列だけの紙である。足元が(不安)だと別の欄に書いていた一人は、(噴水)の見える窓側に席を移した。近くに(片手鍋)の台が来ないように、配膳の列も少し(ずらした)。
水曜の朝、十八人が食堂に並んだ。鵜飼さんが台の前に立ち、配膳の(順番)を(見ていた)。四人目の(客)が味噌汁の前で止まり、添乗員の方に何かを(言った)。前の晩の(会員資格)の手続きで、私はその人の顔を覚えていた。
鵜飼さんが私の方を(振り向いた)。私は紙を一枚ずつ(配って)、七人分の名札と替わりの品を順に説明した。大豆なしの汁は(こちら)、(米)のかゆはこちら。席の位置も(書いてある)。
客は紙を見て、うなずいた。それから自分の家族を(呼んで)、(同じ)列に並んだ。十八人全員が、同じ時間に食べ始めた。待たされた人も、台の前を(素通りした)人も、一人もいなかった。かゆを(もぐもぐ)食べる子供が、きゅうりを(かじって)(笑った)。
鵜飼さんは、(その場)で立ったまま言った。「さっきの(言葉)は(撤回する)。英語の人を呼んで、と言ったのは私の間違いだった。この献立は、篠田さんが(組み直した)ものです」。添乗員の方が、(ありがとう)と言った。
食堂を出る廊下で、鵜飼さんは「大豆の欄を(読み落としていた)」と言った。(長い)予約票の(真ん中)にあったからだ。時代遅れの(書式)だと彼は言ったが、書式の(せい)ではない。私は浮かれなかった。七人分だけ読んだのである。
その日の(昼)、予約を取りすぎていた(別の)団体の件で、(支配人)から(内線)が来た。鵜飼さんが私の(名前)を出したらしい。食事の相談は篠田さんに回してくれ、と言ったそうだ。
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翌日から、鵜飼さんは予約票の写しをフロントに先に(回す)ようになった。(避ける)材料の欄に、赤い(印)が付いている。(確認)が二つで済む形だった。文房具の棚から、彼は赤いペンを一本持っていった。
私は引き継ぎの(紙)を一枚作った。団体の予約票は避ける材料の欄だけ先に読む、(替わりの品)は厨房に二行で(聞く)、席の(位置)は紙に書いて渡す。三行で足りる。料飲部は(手順書)にこれを挟んだ。
間宮さんにも同じ紙を渡した。彼女は長距離の(バス)で着く団体を(担当している)。到着が遅れた日は、(軽食)の台だけ先に(出せばいい)。それも一行で足りた。
十八人は三日(泊まって)、最後の(朝)に観光の相談をしてきた。(半島)行きのフェリーの時刻と、(島民)の市場で買える(珍味)のこと。私は時刻表の写しと、お土産の店主の名前を書いて渡した。(小包)の(配達)も頼めると書き足した。
(超高層ビル)の展望台は南部の口から入る方が空いている。(地下)の通路を抜けると、(買い物客)の列を通らずに済む。そこまで書いたら、紙が一枚増えた。
杉戸さんは、大豆なしの(汁)を(通常)の献立にも入れると言い出した。乏しい材料でも作れるし、(原価)も安い。(繊維)が多いのもいい、と彼は言った。(推薦できる)一品になった。
次の水曜、私は団体の予約票を(開いて)、避ける材料の(欄)から読む。四人分に印が付いている。私はその横に、替わりの品を(書き足す)。