(海外)の(利用者)から、同じ問い合わせが三件(届いた)週。(先輩)の久慈さんは僕の(画面)を横から見て言った。「それはテンプレで返しておいて。三好くんは一次対応だけでいい。原因の切り分けはこっちでやる」。
僕、二十八歳、業務(ソフト)を(売る)会社のカスタマーサポートである。来月から海外(担当)になると言われた矢先だった。(英語)の問い合わせは半年前から僕が読んでいる。
久慈さんはこの(製品)を五年見てきた人だ。障害の見当をつけるのが速く、(幹部)への報告もうまい。悪い人ではない。(普通は)気前のよい先輩で、人を(褒める)のも下手ではない。ただ、原因は自分の手で(確かめたい)のだ。
手近にある(答え)で(済ませる)人ではない、とも言える。十年この(業界)にいて、簡単な(結論)に飛びつく(誘惑)を断る(癖)がついている。そこは僕も(見習いたい)ところだった。
「君の返信は読みやすいよ」と久慈さんは言った。「でも(原因)の推論は(経験)の(量)で決まる。十年に一度の不具合もある。(知り合い)程度の知識で先方に(説明する)のは、絶対に避けたい」。
(言い方)は(感情的)ではなかった。彼は僕を見捨てたわけでもないし、身勝手に仕事を(取った)わけでもない。ただ、僕の側に(少し)(恥じている)気持ちが(残った)。半年読んできた問い合わせを、(今も)一次対応と呼ばれている。
同じ班の瀬能さんは、横で自分の(キーボード)から(手を離した)。久慈さんが会議室に入ってから、「三件が同じ時刻帯なのが気になりますね」と(小声で)言った。彼女の指摘は、いつも(細かい)。熱心に画面を(見回して)から、ひとつだけ言う人である。
少なくとも三件は同じ画面で起きている。(時間どおりに)返信を出すだけなら、テンプレで足りる。だが同じ(訴え)が三つ並ぶのを前にして、何も調べずに閉じるのは、僕には(場違い)な(仕事)に見えた。
三件の問い合わせは、同じ画面で保存が通らないという内容だった。利用者は別の(国)の三社で、(言葉)も違う。送られてきた(記録)の書式も(それぞれ)だった。一社の担当者は(必死の)文面で、残業が止まると書いてきていた。
(必要な)確認は二つだと、僕は最初に見当をつけた。三十の(項目)のうち、原因に(関わる)のは、保存が(落ちた)時刻と、入力した文字の種類だけである。
一つ目で(止まった)。三件とも、落ちた時刻が現地の午前九時台だった。日本時間でも、三件とも同じ一分間に集中していた。(偶然)の一致ではない。急に(鼻歌)が止まるみたいに、画面が(そこで)(固まる)。
もう一つは文字だった。三社とも、(名前)の欄に自国語の文字と、特定の(記号)を(含めて)いた。その記号が、保存の処理で引っかかる。
残りの二十八項目は読まなくていい。画面の明るさや、(デジタル)の(証明書)の種類や、閲覧した順番は、この障害と関連がない。(視力)の話でもない。
僕は二行だけ抜いて、時刻と文字の種類を(並べた)紙を一枚作った。(見つけた)のは二つ。それを久慈さんの机に(置いた)。(好奇心)だけで並べ替えたわけではない。三社の担当者から連絡をもらうたびに、同じ形の(不便)が増えていたからだ。
*
久慈さんは紙を見て、眉をひそめた。それから、同じ記号で試せるかと(聞いた)。試験用の環境で(再現する)のに、十五分かかった。彼は画面に(身を乗り出して)、十分な数の試行を熱心に見ていた。
記号を一つ(入れる)と、保存が落ちる。入れないと(通る)。十回やって十回(同じだった)。確実性のある再現で、(推論)の余地はもうない。(筋が通る)と、久慈さんは短く言った。
瀬能さんが時刻の方を調べてくれた。現地の午前九時台は、日本の深夜の処理と(重なる)。その時間だけ、(間隔)の短い書き込みが詰まって、処理の速度が(落ちる)。二つの(組み合わせ)で、保存が落ちる。
(壊れやすい)作りだったとは思わない。記号と時刻が等しくそろう条件は、ふだんは(起きない)。三社で同じ条件が重なったからこそ、原因を(特定できた)。幸運だったのは、(こちら)の側である。
僕は三社への返信を一から書き直した。テンプレは捨てた。記号を含む社名は一時的に(別の)欄に入れてほしい、深夜の処理の時刻は来週(変更する)。(わかりやすい)形で、それだけを順に書いた。(複雑に)しても読まれない。
水曜の朝、(障害)の(報告会)があった。久慈さんが経緯を話し、開発の担当者が(聞いていた)。会議室の机に十人が寄りかかるように座って、誰も(感傷的)な話はしない。開発の担当者が一つだけ聞いた。「記号の(種類)は、どこまで調べてありますか」。
部屋が(静かに)なった。久慈さんが僕の方を(見た)。僕は紙を一枚ずつ配って、三社の社名に入っていた記号と、(落ちた)時刻の(一致)を順に説明した。再現の手順も十行で(書いてある)。
開発の担当者は、紙の上を(指でたどって)から言った。「これなら直せる。(来週)の修正に入れます。(立ち向かう)相手が(分かっていれば)、作業は半日です」。
久慈さんは、その場で立ったまま言った。「(さっきの)(言葉)は撤回する。テンプレで返しておいて、と言ったのは僕の(間違い)だった。この切り分けは、三好くんがやった(もの)だ」。
報告会が終わって、久慈さんは「(時刻)の一致は(見ていなかった)」と言った。三件を別々に読んでいたらしい。(謙虚な)言い方だった。僕は浮かれなかった。二行だけ並べたのである。
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翌週から、久慈さんは問い合わせの一覧に時刻の欄を(足した)。日本時間に直した列も並ぶ。(確認)が二つで済む形だった。
僕は引き継ぎの紙を一枚作った。(同じ)問い合わせが二件(来たら)時刻を日本時間に直して並べる、文字の種類を先に見る、再現の手順は十行で書く。三行で足りる。班の棚に(貼った)。(不注意さ)のせいにしない書き方を(選んだ)。
三社には、修正が入った日に電話した。一社の担当者から、(短い)(返事)が来た。原因の説明が分かりやすかった、社内に(転送した)と書いてあった。(忘れられない)一行だったので、今も控えに残してある。
瀬能さんは、時刻の列を自分の(案件)にも足した。彼女は(細かく)見るのが(得意)で、僕が見落とす(側面)を先に拾う。(社交的)な人ではないが、拾ったものは必ず渡してくれる。信頼できる同僚である。
久慈さんは、十年に一度の(不具合)という言い方をもうしない。(代わりに)、二件来たら並べてみよう、と言うようになった。最終的に、それが一番(速い)。(悲観主義者)の(読み方)をやめたわけでもない。ただ、並べる(手間)を惜しまなくなった。
次の月曜、僕は海外からの(問い合わせ)を開いて、時刻の(欄)から(読む)。今週は一件だけである。僕はその横に、文字の種類を書き足す。