シドニーの二月は真夏で、研究所の流し台には朝から日が差す。海洋科学の修士に入って二週目、私は毎日、ガラスのサンプル瓶を洗っていた。湾の(海草)を十年続けて調べている(研究室)で、瓶は一回の採集で七十本使う。使い終えた瓶は、洗って(再利用)する決まりだ。
初日に、博士研究員のライアンが流し台を指して言った。「(新人)はサンプル瓶を洗う。それが最初の仕事だ」。(冷笑的)な言い方ではなく、ただの決まりを伝える声だった。彼は船の班をまとめていて、仕事は(迅速)で(正確)だ。研究室の誰もが彼を(尊敬している)。教授も、船のことは彼の判断を(重んじる)。少しせっかちなところだけが、玉にきずだった。
海草の原っぱは、湾の多くの(生物)の種が暮らす場所だ。小さな魚が(繁殖し)、海の底に(二酸化炭素)をため込む。(地球温暖化)の話になると、生態学者の教授はいつもこの海草を例に出す。その記録を十年(維持してきた)のは、研究室の(名声)のためではない。湾の変化を知る手がかりが、ほかにないからだ。
瓶を洗うのは、思っていたより大事な仕事だった。(前)の採集の泥や小さな虫が少しでも残ると、次の(分析)の数字を(歪める)。私は一本ずつ光に透かして、(くず)が残っていないかを確かめた。瓶の首には、地点の番号を書いた(札)が付いている。一番から七番まで、いつも同じ順番で棚に戻す。
水曜の昼、ライアンが土曜の計画を黒板に書いた。(出発)は朝九時、港に近い七番の地点から順に回って、最後に湾の奥の一番へ行く。「近い方から回るのが一番(効率がいい)」と彼は言った。誰も(反応)しなかった。
ただ、私は瓶の札の順番が気になっていた。どうして毎回、一番から並べるのだろう。その日の夕方、棚の上の採集手順書を(たまたま)手に取った。三十頁の薄い(冊子)で、研究室では皆が(最初の)数頁(のみ)読む。私は流し台の横の椅子で、最後の頁まで読んだ。
ほとんどは、瓶の扱いや記録の書き方だった。要るのは二か所だけだと、読み終えてわかった。一つは最後の章の一行、もう一つは巻末に(添付された)潮の表である。
最後の章には、(次のとおり)書いてあった。七つの地点は毎回、一番から七番の順に回る。採集は(潮)が引き始めてから二時間以内に終える。十年分の数字を(科学的に)比べるため、順番と時間を変えないこと、とある。理由も詳述されていた。海草のまわりの水は、潮の(高さ)で濁り方が(変わる)。
巻末の表に(照らして)、土曜の潮を確かめた。いちばん低くなるのは朝の七時四十分だ。九時に港を出て七番から回ると、最後の一番に着くころには潮がかなり満ちている。十年(連続した)記録の最後の一年だけが、別の条件の数字になってしまう。
私は表を(何度も)見直した。(思いつきで)言っていいことではない。ライアンの計画は、近い順に回るという意味では(完璧)だった。ただ、手順書の(側面)から見ると、決定的に合わない点が二つある。順番と時間だ。
木曜の夜、寮の部屋でよく考えた。新人が船の計画に口を出すのは、(正直に)言って(気が進まない)。かといって、(手順書)を(軽視した)まま土曜を迎えれば、その日の数字は使えなくなる。私は手順書の二か所に付箋を貼り、潮の表と(並べて)一枚の紙にまとめた。
金曜の朝の打ち合わせで、(思い切って)手を挙げた。少しの(勇気)が要った。「土曜の順番について、一つ確認してもいいですか」。ライアンは驚いた顔をしたが、すぐに「どうぞ」と言った。親切な人なのだと、そのとき気づいた。
私は紙を(配って)、声が上ずるのを抑えながら、手順書の最後の章を読み上げた。それから潮の表を指した。「七時四十分が干潮です。一番から順に回るなら、(夜明け)の六時に港を出る必要があります」。部屋の六人が、紙をじっと見つめていた。
ライアンは手順書を手に取って、最後の頁を自分で開いた。しばらく黙って読み、それから表の数字を(指でたどる)。「十年分が、この(順番)なのか」。「はい。瓶の札も、一番から並べる決まりです」。
彼は顔を上げて、全員の前で言った。「(初日に)、新人はサンプル瓶を洗う、と言った。あれは(撤回する)。僕は手順書を最初の数頁しか読んでいなかった」。それから黒板の計画を(消す)と、新しい紙を貼った。「土曜のルートは、彼女の案で行く。出発は九時の(代わりに)六時だ」。
誰も冷やかさなかった。博士課程のミアが、(すぐに)船の予約の日程を変更しに行った。船を(操縦する)ベンは「六時なら、港の朝日が(素晴らしい)よ」と(気楽に)笑った。私は一時的な不安を振り払って、ルートの紙を清書した。
土曜の朝、港の(水面)は光り輝いていた。風はそよ風で、波も低い。一番の地点は(小川)が湾に流れ込むあたりで、(泥だらけ)の浅瀬にペリカンが立っている。長いくちばしを水に入れたまま、長く動かなかった。
着いたのは六時四十分、潮が引き始めたところだった。私は地点ごとに時刻を書き、瓶に水を入れ、札を(確かめた)。船が少し(傾く)たびに、ベンが舵を戻す。七番を終えたのは八時半で、手順書の二時間に遅れずに収まった。
船の上で、ライアンが記録の紙を(のぞき込んだ)。「去年の同じ日と、ちゃんと比べられるな」。彼はそれだけ言って、瓶の箱を船の後ろへ運んだ。(誇らしく思う)より先に、(安心した)。帰りの海岸線は、朝の光で白く見えた。
月曜の午後、研究室に戻ると、流し台に七十本の瓶が整然と並んでいた。私が一本目を洗い始めると、ライアンが隣に立って二本目を取った。「洗い方も手順書にあるのか」と彼が聞く。「最後から二番目の頁に」と私は答えた。
窓の外では、湾の水がまた満ち始めている。洗い終えた瓶を、私は一番から順に棚へ戻した。