調査船の甲板で、(主任)(研究員)のダグラス博士は私にブラシを渡した。「新人はサンプル瓶を洗っていればいい。航路も採集の順番も、もう決まっている。君は瓶を切らさないでくれ」。
私は二十六歳、(北西部)の州立大学で海洋学の修士課程にいる。沖縄の(研究所)で三年、(台風)の後の海を調べる仕事を経験してきた。この船に乗る日を、私は夏からずっと楽しみにしていた。それでも船の上では、甲板の(端)で瓶を洗う係だった。(乗組員)の輪の中で、私は少し(場違い)な気がしていた。
ダグラス博士は、この(海岸線)を二十年調べてきた(生態学者)だ。乗組員にも学生にも礼儀正しく、(怒鳴る)ことはない。博士の(誠実さ)は、船の誰もが知っている。ただ、新しく来た学生に航路の話をさせる気は、今のところまだないらしかった。
今回の調査は三日間で、海岸に沿って十二の地点で水を採る。目的は、川から流れ込む水が沿岸の(二酸化炭素)の量をどう変えるかを測ることだ。(地球温暖化)の研究に使う記録で、毎年同じ季節に続けている。
瓶洗いはありふれた仕事だが、手を抜けない。瓶は毎回(再利用)するので、前の地点の水が一滴でも残れば次の測定が(狂う)。私は一本ずつ洗い、乾かし、番号を書いた。昼には、肌寒い甲板でも汗をかいていた。甲板は(滑りやすい)。濡れた板を踏むたびに、長靴は(泥だらけ)になった。
海から見る陸は、低い(尾根)が幾重にも続いている。いちばん高い(山頂)には、夏でも雪が残っていた。船長のルイスは、(操縦)席から海岸の(目印)を一つずつ教えてくれた。
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一日目の夜、私は迷路のような通路を抜けて(船室)に戻り、採集手順書を最後の頁まで読んだ。瓶の番号の振り方を確かめるつもりだった。手順書は十八頁あり、ダグラス博士が若い頃に書いたものだ。
最後の頁に、非常に小さな字の付録があった。「前日の雨量が三十ミリを(超えた)場合、河口の三地点は干潮の前後二時間以内に採ること。それ以外の時間に採った水は、川と海の水が混ざり、測定値が一貫しない」。
私は掲示板の天気の記録を見に行った。前の日の雨量は四十二ミリだった。この海岸の天気は(変わりやすい)。夕方の雨は、ちょうど川の上流の(小川)に降っていた。
翌日の予定表では、船は北から南へ順に進む。河口の三地点に着くのは午後二時で、満潮の時間だ。手順書に基づいて考えれば、その時間に採った水は科学的には使えない。(したがって)、三地点分の作業が(無駄になる)。
干潮は朝の六時だった。北から回る代わりに、最初に南の河口へ向かう。三地点を採ってから北へ戻れば、条件に合う。(距離)は(かなり)延びるが、残りの九地点には時間の制約がない。私は航路の図を一枚描き、燃料の量を船長に確かめた。
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翌朝五時、(甲板)でダグラス博士が予定表を読み上げていた。私は少しの(ためらい)の後、(口をはさんだ)。「すみません。(手順書)の付録に、雨の後の河口の採り方が書いてあります」。
博士は(懐疑的)な顔で(眉)を上げた。「付録?」。私は手順書の最後の頁を開いて渡した。博士は立ったまま、付録を(注意深く)読んだ。乗組員の(動き)が、少しずつ止まっていく。若い甲板員が、(困惑した)顔でこちらを見た。
「昨日の(雨量)は四十二ミリです」と私は言った。「予定どおりなら、河口に着くのは満潮の時間です。南へ(先に)行けば、干潮に間に合います」。描いた航路の図と、船長の(燃料)の書き込みを見せた。
博士はしばらく(黙っていた)。それから船長を呼び、図を見せた。ルイスは図を見て、にっと笑った。古い船の手すりを、(愛情を込めて)(なでる)。「燃料は足りる。四キロ延びるだけだ」。
博士は甲板の全員に聞こえる、断固とした声で言った。「(新人)は瓶を洗っていればいい、と言った。その言葉は(撤回する)。この付録を書いたのは私なのに、私が(うっかり)忘れていた。今日の航路は、彼女の(図)で行く」。
それから私の方を向き、小さく頭を下げた。「三日目の航路も、君が(選ぶ)といい。(疑いなく)、君の図の方が正しい。手順書を最後まで読んだ人間が決める方が、(賢明だ)」。私は(頷いた)が、(すぐには)声が出なかった。
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急な変更で、甲板は少しのあいだ(混乱)した。私は我に返って、瓶の箱を(船首)へ運んだ。船は南へ舵を切った。そよ風が弱く、海は(平和に)凪いでいる。六時少し前に河口の一つ目の地点に着き、私は自分の洗った瓶で水を採った。カモメが一羽、(くちばし)で羽を整えていた。
三地点を採り終えたのは七時半だ。河口の水は茶色く濁り、(松)の葉が浮いている。博士の学生のカーラが、塩分を(正確に)(測って)記録した。数字は、去年の同じ季節とよく(似ていた)。期待していたとおりの値だった。
その後、船は北へ戻り、(残り)の地点を(順に)回った。航路が(延びた)。(そのため)、昼食は一時間遅れた。けれど誰も文句を言わなかった。甲板で私が瓶を洗っていると、カーラが黙って隣で手伝い始めた。
夜、博士は船室で(測定値)の表を開いた。河口の三地点の値は、長年の記録の線に(きちんと)乗っていた。「満潮で採っていたら、この三つは外れ値になっていたな」と博士は言った。(注目すべき)は、三地点の値が去年より(少し)高いことだった。川の水と記録の質は(切り離せない)、と彼は続けた。
三日目の朝、私は航路の図をもう一枚描いた。(潮)の時間に応じて、採集の(順番)を少し(変える)。記録の質を(維持し)、測定の精度を(高める)ための小さな工夫だ。博士はそれを見て、手順書の(付録)の頁に自分で付箋を貼った。
港に戻る船の上で、私はまた瓶を洗っていた。洗う手は同じだが、棚の瓶は私が決めた(航路)の順に並んでいる。